「マリアとアスカの日本脱出記~後日談」

2018年10月3日(水)夕方に本学レストハウスで行われたトークイベント「マリアとアスカの日本脱出記」の後日談として、当日出ていた質問に対して、3年生の今村安里さん、2年生の嶋崎麻莉亜さんにお話を聞きました。(平成30年10月12日)

マリアとアスカの日本脱出記後日談

センター職員(以下センター):まず最初は、生まれはイギリス、小学校をアメリカで過ごし、一旦日本に帰国しますが大学も最近まではハンガリーに行っていたという帰国子女マリアさんへの質問からお願いします。

 

「日本に来たときに大変だったことはありますか?」

嶋崎麻莉亜(以下マリア):日本語ができなかったことですかね。アメリカに住んでいた頃は、日本語を使うのは家での両親との会話だけで。小学生の頃は、毎週土曜日の日本語学校に通って読み書きを習っていたけど、宿題も多くて、平日の現地校との両立が難しかった。中学生になって日本に帰国したけれど、日本語にはなぜ3種類(漢字・ひらがな・カタカナ)あるのかさえもうまくわからない状態。日本で帰国子女として理解してもらえず苦労しました。

「秋美に行こうと思ったのは何がきっかけですか?」

マリア:親戚が秋田にいるので、秋田が遠いところという意識はなかったです。美術はもともとやりたかったことの一つで、ハンガリーの大学から戻ってしばらく東京に住んでいた時に、秋美のオープンキャンパスへ参加して、そこで決めました。そのあと東京の三鷹にある知り合いのアトリエで、受験デッサンというよりも「ものの見方」を教わりました。

「ハンガリーの物価はどのくらいですか?」

マリア:日本円の3分の1くらいだから安かったと思う。国内製品がまず安くて、外食するのもタクシー代も安かったと思います。逆に、輸入品の電化製品は高くて。ハンガリーは、パンと芋を主食とする国で、炭水化物の芋を主食とする国ならではというか、健康面に考慮した「ポテチ税」なんていう税金もあって。私はポテチ好きだったし辛かった!

「アメリカに住んでいる間、日本のことを両親から聞いたりしていましたか?」

マリア:長期休みの時とか、日本に年に1・2回は帰っていたから、日本を全く知らなかった、ということはなくて。土曜日の日本語学校もあったので、近い国として感じていました。日本にちゃんと住んだのは中学校1年生からです。

「小さいときに遊んでいた絵本やおもちゃは?」

マリア:「エルマーの冒険」とか絵本はあって、親に読めと言われていたけど、漢字を見たくなかったから避けていました。

 

センター:ありがとうございます。では続いて、1年間休学して放浪の旅に出たアスカさんに対する質問をまとめましたのでお願いします。

 

「バイクの免許はどうしたんですか?」

今村安里(以下アスカ):日本では免許が必要ですが、カンボジアでは125cc小型2輪は無免許で乗れます。カンボジアでは10歳くらいになると子供達がバイク練習を始めてて。むしろ自転車感覚に日常的に使われていました。自転車を運転する人も稀にいましたが、車道走行なので一緒に走るのは怖かった。ヘルメット着用は必須だったので、危ないからフルフェイスのヘルメットをかぶっていました。ちょうど日本に帰る知り合いからバイクを買って。だけど、外国人だっていうことで路上取締の警察官に目をつけられて、違反もしていないのに罰金を支払わされるなんて話も聞きました。

「トゥクトゥクに扮した悪い人はいなかったのですか?」

アスカ:稀に麻薬売人だったっていうことはあるみたいだけど、私の場合はそんな人には会わなかった。特に、夜暗くなってからとか、男の人だとそういう事件に巻き込まれたりするみたい。女の一人旅は危ないと言われていますが、普通のおじさんたちがバイクがエンストした時も助けてくれたりして、フレンドリーに接してくれました。「携帯持ってると危ないよ」とか「カバンは前に」とか。

「滞在中何か作品はつくりましたか?」

アスカ:作品は作ってはいなかったけれど、作りたいと思ってリサーチを続けていました。その時の資料は手元にいつもあるので、今後、カンボジアの風景を版画とかで作品にしたいです。

「引きこもっていたとおっしゃっていましたが、どのくらいの期間こもっていましたか?」

アスカ:外こもりというのは、気持ち的な意味でだったんですけど。日によって変わって、日中の半分くらいは外には出る様にしていました。カンボジアに着いて1ヶ月くらいでバイクが手に入ったので解消されていたかも。毎日、「荷物は最小限」「お金は必要最低限」「バイクの運転も気をつけて」「カバンの持ち方も気をつけて」「英語や現地語も考えて」「危ないところには寄らない」「暗くなったら一人で出歩かない」といった小さいけど気をつけるポイントが多すぎてストレスになってしまっていました。

「トイレやお風呂は、問題ありませんでしたか?」

アスカ:カンボジア・プノンペンの下水は、福岡の北九州市が支援して下水道を整備したそうで、汚いということはなかった。トイレは、綺麗なお店やホテル以外はほとんど水洗じゃなかったので、桶に溜まった水で流したり、流せないところはトイレットペーパーをゴミ箱に捨てたり。トイレの設備自体がない村に行ったときは、草むらで、ということもあったし、個人的に全然気にしないので・・・。

「カンボジアの〇〇隊?ワークショップの詳細を」

アスカ:トークの時に話した、高校3年生の時に行った『青年海外協力隊』のことだと思うんですけど、日本政府と各国間の政府との間で実施している国際協力事業です。出身の鹿児島県が特に力を入れていて、藤先生や高校の時の担任の先生(藤先生の後輩で美術教師)も協力隊として参加していたんです。高校生や十代の若い学生たちを対象とした「青少年国際協力体験事業」も盛んに行われていて、鹿児島では身近に国際協力があるというか。市からの助成金もあるので、気軽に参加しやすいし、親御さんも送り出しやすかったんじゃないかなと思います。

「今もカンボジアは好きですか?」

アスカ:大好き。カンボジア愛を語りだしたら止まらないので、個人的に聞きに来てください!

 

センター:ありがとうございました。それではここからは、お二人にお互いの経験などを語っていただきたいと思います。

 

「留学のための費用はどう集めたのですか?」
「海外に行くためにかかった出費はどのように工面したのですか?」

マリア:インターネットを使ってとにかく奨学金情報を探す。そして、とりあえず応募してみる。あと、返さなくていい奨学金(給付型)は大きいです。
センター:留学でなくても、アーティスト・イン・レジデンスとかでも、生活費・制作費の支給があるものもありますよね。もちろん、本学の「留学等助成金制度」もあります!
アスカ:私の場合、秋田のアパートはそのままにして、休学中の1年間分を払い続けました。鹿児島に荷物を送り返して復学したときにまた送るより効率がよかった。秋田のアパートを借り続けて、光熱費は全部止めて、東南アジアを放浪していた間の1年分でかかった金額はトータル100万円くらい。でも、ヨーロッパとかに行っていたらもっと莫大なお金がかかっていたはず。
マリア:滞在先にツテとか知り合いがいれば安いところを探したりできるけど。
アスカ:日本にいながらつながりを作っていくことは大事だと思う。
マリア:自分からアプローチしていくような、つながりを自分から作っておくと、「こっちの国に来たら遊びに来て、私も行くから」という流れになるんですよね。
アスカ:一瞬の出会いが一生の財産になったりする。
マリア:世界って意外と狭いから、その先に出会いがあったり。
アスカ:そうそう、友達の友達がつながっていたり、「あ、そこがつながるんだ」っていう。
マリア:海外の人はFacebookやってる人が多いから、ぜひ活用してほしい。

「歯医者や眼科(コンタクトなど)のことが気になります」

アスカ:ワンデーのコンタクトだと大量に持っていけないから、2週間のものを持って行って使っていたらすぐ目が痛くなって、そのあとは基本メガネ。もう2週間のコンタクトもワンデーみたいに使って、人と会うときや大事な時だけコンタクトにしていました。まあ、慣れないことするもんじゃない、ってことですね。
マリア:私はコンタクトだけ持って行って、現地で保存液、洗浄液を買っていました。
アスカ:あと、トークの時に犬にかまれた話をしましたけど、海外旅行保険に入っていたのでキャッシュレスで大丈夫でした。保険料は観光用(半年)で10万円くらいだったかな。病院は1回の診察で3万円くらいかかっていたらしいです。
マリア:何もないのが一番いいんだけれど、なにかあったときのために。私の場合は、保険は大学指定の保険に入っていました。
アスカ:自分が海外で入院しなくちゃいけなくなったときに、親の滞在費もまかなってくれたりするし、渡航先のゲストハウスで物を壊してしまったときとか、カメラを壊してしまったときも、手続きは面倒くさいけど、保険に入っていれば何かあったときに助けられるんです。
マリア:慣れてないところだから何が起こるかわからないし。
アスカ:飛行機の気圧の関係で歯が痛くなるケースを何度か聞いたことがあります。虫歯の事前治療も大事だけど、歯の治療に関する保険は通常の保険にはついていないことが多くて、特別に付けないといけないんですよ。
マリア:歯が悪いと食べ物が食べられないし、体調も左右するし、せっかく海外に行ったのに悲しいですよね。
マリア・アスカ:だから保険は絶対入った方がいい!
センター:わたしも海外で大病したことがあるのでわかります。抗生物質もらうにも大金が必要で大変でした。

「この国で絶対あれは食べるな!というような食品はありますか?」

アスカ:生卵は、海外では食べないんですよ。日本の卵だからできる卵かけご飯。海外は基本アウトです。途上国だと特にそう。肝炎などの注意も必要で。予防接種は必ずしなきゃダメです。
マリア:生野菜、生のものが安心して食べられるのは日本だから。海外で食べるとあたったりする。
アスカ:でも、私は現地の人が食べていれば大丈夫なんじゃないかと思ってます。胃が弱い人は危ない。水でもあたるときもあるし、胃腸薬とか常備しなきゃ。
マリア:ミネラルウォーター必須!
アスカ:あとは鍛える!途上国だと、氷もアウト。穴が開いてる衛生氷だったら大丈夫、とか見極めて。
マリア:外食して同じものを食べていても、体調や人によってはあたったりするんです。自信がない人は気をつけてほしい。
アスカ:旅しながら鍛える!見極める目を養う!
マリア:スーパーとか、割れたままの卵とかそのままだったりするし、ハエとか飛んでたり、市場では肉がパック詰めされてない場合もあるし、日本とは食品に関して意識が少し違うと感じた。
アスカ:お腹壊して1回知るのもいいかも(笑)挑戦してみて、あとはがんばる!

「海外に行くときに、これだけはやるべき、またはやめとけ、だめだっていうこと・ものはありますか?」

アスカ:お金は必要最小限を持ち歩くことが大事。あと、カードや財布は分けて持っておいた方がいいかも。当然だけど、暗くなってから女の子一人で出歩くのはやめる。
マリア:旅してる中で、ここは危ないかもなという通りや雰囲気がわかってきたりするもの。なんとなく染み付いた感覚があるかも。
アスカ:その国のマナーを知っておくことは大事。路上マナーや法律、事前情報をチェックしておくといいと思う。
マリア:国によって犯罪の性質もパターンも違う。タクシーは危険だったり。移動手段も確認しておく。
アスカ:それぞれの国の危険情報とかは着いてから調べたりもしていたけど、歩きスマホも狙われるので。
マリア:旅の本(地球の歩き方、ロンリープラネット)などを確認してもいいと思う。国ごとの事件の傾向などがちゃんと書いてあるんです。
アスカ:カンボジアでよくあるのは、日本語で喋りかけてきて、日本語教えて、と家まで呼ばれて、飲み物に睡眠薬いれられちゃう、みたいな。あとは男性だと、家に呼ばれて麻雀賭博に強制参加とかに巻き込まれやすいみたい。ひったくりも多いんです。バイクに乗ったまま発砲されたりすることもあるので、命優先のためにカバンは諦めたほうがいい。だから大金やカードをまとめて持ち歩かないことが大事なんです。
マリア:登録すると、日本の大使館・領事館からメールが届く設定にもできますよ。日本人が巻き込まれた犯罪について、とか。

「どうして『脱出』なのですか?」

アスカ:正直いうと、もともと高嶺先生のアイディアで。ほかにもいろいろ案はあったんですけど、岩井先生からも「海外放浪のススメ」とか。「脱出」には、自らの意思を持って日本から出ていく、という意味があるんですよ。
マリア:私の場合は矛盾してますけど、最初から脱出しているし。でも、一つの場所にとどまらないという意味で、脱出したいとは思っています。ずっと同じところ長くにいても、その土地の良さはわかるけど、もっと違う方面からも見たいというか。脱出してみるのもいいかもと思っています。
センター:海外に行くには、観光でも留学でも事前の下調べは絶対必要ということですね。特に自分でコントロールできない犯罪や事故には巻き込まれないようにしたいものです。

「アスカさん、フィリピンに語学留学する前の英語力はどれくらいでしたか?」

アスカ:挨拶くらいのスピーキング力で。リスニングは、第二言語の人が喋る英語だとわかるとか、現地の人が喋るとわからない感じです。中学校レベルくらいのグラマー(文法)であれば完璧。長文は苦手でした。ボディーランゲージとか、人の目を見て話して乗り切るというか。話す練習さえすれば、意思疎通はできるという英語力でした。行けばなんとかなる、とよく聞くけど、現地では事前準備が大事と言われました。日本でできる限り覚えて、ベースがあるだけで伸び方が違うと思います。基本的に、日常会話は中学校レベルで通じるんですよ。

「語学系が死ぬほど苦手なんですけど、どうにかなりますか?」

マリア:モチベーションはあるけどやり方がわからないのか、そもそも苦手意識があるのか、ちょっとわからない質問ですね。一番いいのは、恋人を作ることってよく聞きます。モチベーションが大事。勉強だと思わないで。私は、本を見るのも嫌だったけど、英語の本が日本語に訳されている本を意識して読んでいたらだんだん慣れてきて、エンジョイしながら読めるようになりました。
アスカ:初めていざ海外に行ってみると、外国の人と話すときすごく恥ずかしくて。一緒に行った同い年の友達は恥ずかしがらずに話しているのに、なんでって。英語が好きだけどいざ話すとなると恥ずかしいという日本人らしい態度も嫌で、変えたいと思いました。その恥ずかしさが英語の苦手感に繋がっていたような気がします。
マリア:人と話すときに意識していることは、目を見て話すこと。日本ではあまり目を見て話さないなって思ったことがあります。目で感情がわかるというか。アイコンタクトって、ノンバーバルコミュニケーションに繋がるんです。
アスカ:私は、笑ってたら基本どうにかなると思っていて。外国でも日本語で話しかけて、バイクが壊れた時も日本語で「バイク壊れた」って繰り返して、でも身振り手振りでわかってくれるんですよね。日本だと話す時は静かにしてきちんとしているイメージがあるけど、大げさに体を使ってコミュニケーションするのがあってもいいかなと。あと、必要なのは英語力だけじゃなくて、現地の言葉を調べていくのは大事だと思う。挨拶だけでも、行く先の国の言葉を覚えて使うと距離が縮まるんです。日本でも、日本語を使ってくれてる外国人を見るとがんばって、って思いますよね。
マリア:「ありがとう こんにちは おいしい」は行く国の言葉を覚えるとなじみやすいですね。

「海外で生活しているとき、日本の政治や文化、歴史はどう見えましたか?友人にどんなふうに説明しましたか?」
「日本人であることをどんな時に意識しましたか?」

マリア:日本に興味のある外国の方が日本のことをよく知っていたりしました。東北大震災のときとか、詳しく知っていたり、心配してくれたり。
アスカ:カンボジア人は親日の人が多くて、SNSで「pray for japan」の動きや寄付してくれたりしていました。実は、カンボジアは、今一党独裁政治なんですけど、日本が選挙運営に資金援助しているんです。これが、独裁政治を支援することにつながっていて、他の国は撤退しているのに日本だけ未だに支援している。社会情勢の中で日本が舵を切れなかったことに疑問を持ったり、日本が関わっているというだけで、敏感になっていたと思います。日本って海外で意外と影響力を持っているんです。

「外へ出て発見したこと、一番心に残っていることは何ですか?」

アスカ:便利さや発展が一番の幸せではないと思いました。色々なものを色々な方向から見ることを知った気がします。
マリア:今、日本を見直していて、日本はオリンピックに向けて国際化しすぎ、というか気張りすぎている感じがします。例えば、オリンピック用シンボルマークを再構成したりとか。外に合わせるよりも、日本が持っているものを伸ばして進めて行くことが良いんじゃないかな、と感じます。

「海外にまた行きますか?!」

アスカ:もちろん!東南アジア、最終的にはアフリカに行きたい!
マリア:わたしも。トルコ、南アメリカとか、ロシアも。アメリカも帰国してから一度も帰ってないのでどう変わったか見て見たいです。
アスカ:世界一周したい・・・!

センター:海外で一度生活すると日本に戻ってこられない症候群もあると聞きますが、お二人の視線の先には秋田の山々を超えて大きな世界が見えているような気がしました。マリアさん、アスカさん、長い間貴重なお話をいただき本当にありがとうございました!
今後も国際交流センターはいろいろなイベント、そして交流事業を生み出していきます。どうぞよろしくお願いします!

(平成30年10月12日)