旅する地域考 2019夏編 未知の日常から、新たな問いと発見を生み出す。

旅する地域考 2020冬編 未知の日常から、新たな問いと発見を生み出す。

Tabiko News タビコウニュース

冬編レポート

DAY6

2020.1.13

 

「辺境を酌む冬編」、現場に同行したスタッフによるレポートをお届けします。

 

 

Out of Your Eye

 

象潟は今日も雪の気配がない。

車道が山間部に入り、由利高原に差し掛かると、ようやく白く覆われた地面が見えてきた。前日に取りまとめた遠方のフィールドワーク候補のうち、3日目に訪れた百宅(ももやけ)集落を希望するメンバーを連れて現地に向かう。

 

豪雪地と聞いていた百宅は今日も幸い穏やかだ。晴れ間もある。前回は「訪れた」といっても、半世紀を超えて集落に繁く通う案内人・三浦氏の語りを傾聴するためで、集落の姿は、ほぼ車窓から眺めただけ。今後10年以内にダムの水底に沈むという土地の話を聞いて、メンバーは自らの足で歩き、思考を整理し、身体を通して得られるものを探ろうと考えたようだ。

雪解け水を採取する。失われるであろう風景を撮影する。百宅を象徴するものを考える。各々の「身の置き方」で時間を過ごす。

 

みなを待つ間、周囲を見渡してみる。高地で山の尾根が近く、鳥海山麓に潜る入江のような地形だ。平野が意外と広く、ここなら「家が百軒もたつ」ことから、百宅という地名の伝承があるのもうなずける。現在面積の大半を占める田畑は雪に埋もれているが、休耕田が多い。最寄り駅へは車で約1時間。例年は4~5メートルにもなる積雪、かつての交通事情を想像すると、冬は文字通り閉ざされただろう。里から移り住むには困難な、山を背に暮らす人々が拓いた土地だ。

そういえば、かつてはマタギを生業にされたとも聞いた。尾根から見下ろす冬の郷里は家がほとんど雪底に見えたのではないか。その光景が今度は水に替わるのだ。

 

やがてメンバーがぽつぽつと戻ってきた。

帰路、それぞれに成果を聞くと興味深い話があった。雪原に見慣れない虫を見つけ、突っ伏して観察していると、向かいが顔役のお宅だった。訝しがられたが経緯を話すと家に招かれ、いろいろと話してくださったらしい。ご友人のマタギが差入れた猪鍋も振る舞われたそうだ。ダム建設については、継ぎ手の乏しい百宅ではいずれ集落を維持できなくなる。その時に先祖来の土地を廃村にするよりも、ダムが下流域の安全に貢献できるならむしろ望ましくもある、と語られたとのこと。

そんな話を聞いたメンバーは以前からの見方が変わり、今後もぜひ通いたいと話した。

国策を押し付けられたとも言えるのに、住民側の表立った反対は聞こえない。この側面だけをみると、なぜ声をあげないのか誰かに質したくもなる。メンター陣の講義では問うこと、表明することの重要さが語られもした。今日、再訪してまた異なる考え方を得たことで、どこか自分が囚われていた見方から自由になれたということだった。

たとえば同じ講義を大学の講義で聴いたとしても、学んだ眼差しを直ちに検証してみるといった、「熱いうちに」できるアクションは少ないだろう。

 

旅する地域考では、前半に集中する現地講座を個々に振り返るために後半の活動があり、思わぬ出会いから新たな参照点に巡り合うことがある。

受講者には、成果を焦るよりも、自身の物差しから自由になる瞬間を一つでも多く経験してほしい。

 

文・写真/小熊隆博(ファシリテーター)

 

 

2020.1.13旅程

8:00|にかほ市/由利本荘市/遊佐町 個別リサーチ

13:00|象潟公会堂 メンタリングセッション、制作

18:30|象潟公会堂 全体ミーティング

 

 

 

 

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