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Report 06

中嶋泰郁

 

身近に流れる、知らない論理

 

 

純粋に記録に残したいと思った。普段原稿を書き出すときとはどこか違う感覚だった。

一見さんなのに顔パスが通用する。明細が一切出ない不明朗会計。店主の苦心が見え隠れする丁寧な靴修理の手仕事。でもそれを示せるのは記憶だけ。

こうした経験と高揚感を残す術がモノ自体以外にはなかったため、私と店主のやり取りを「キャプション」として戯曲に残して、靴に添えた。日頃触れる資本主義とは異なる、知らない論理の流れる亜空間が身近に存在していたのを見つけた気分だった。

こうしたお店の考えや論理を受け継ぐのは個人か地域なのかは分からないが、「おもろい」と価値を見出すことから何かが始まると前向きに思う。

 

●戯曲『アポローン靴店』

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プログラム期間中、「10のタスク」のひとつ「#8 個人商店に賭ける!」で、初めて入った靴屋の店主とのやりとりを重ねてきた中嶋。仕事上、これまで身近な場所が「取材先」だったという中嶋は、馴染みのない地域の商店街の構造に衝撃を受けたという。靴の修理を依頼し、ピカピカの靴を受け取るまでのプロセスを記者の視点ではなく、ドキュメント形式の戯曲『アポローン靴店』にまとめた。「記事を書く時は、何かしらの感情が入ってしまう。解釈を抜きにして、そのままの体験を記録に残したかった。このタスクでは、大きなことを期待せずに、予期せぬ体験に出会うことができた」。

 

 

中嶋泰郁(大阪)

Yasufumi Nakashima

時事通信 記者

1993年千葉県生まれ。早稲田大学教育学部卒業。2017年時事通信入社。政治部を経て大阪支社編集部。現在は大阪府庁を中心に行政取材を担当。19年、秋田県主催の関係人口創出事業に参画し、羽後町を訪問。関係人口としての関わりを模索中。