旅する地域考 2019夏編 未知の日常から、新たな問いと発見を生み出す。

旅する地域考 2019夏編 未知の日常から、新たな問いと発見を生み出す。

10 minute interview

旅考を語る

岩井成昭

―「旅する」理由

 

昨年から夏編と冬編の年2回に分けて開催している「旅する地域考」。多様な海外ゲストやメンターとともに地域を旅する、このユニークな集中型ワークショップはどのように構想されたのか、いかにプログラムされているのか。

企画の中心にいる秋田公立美術大学大学院の岩井成昭さん、岸健太さんに、10分で区切ったショートインタビューで少しずつ話を聞き出していきます。

 

 

―まずは、「旅する」という独特なスタイルを採用するにいたった経緯を教えてください。

 

岩井:「旅する地域考」の前に、2015年から「AKIBI plus」という事業を3年間行っていました。それは、秋田公立美術大学ができて(開学は2013年)、新しいタイプのアートやアーティストが生まれてくる一方で、それを秋田の人たちに伝えたり、翻訳したりするアートマネージャーがもっと必要だという使命感にも駆られて始まった人材育成事業なんです。秋田間のネットワークを作ることを目的に、その3年間で、秋田市や五城目、男鹿、角館、横手といった秋田各地でスタッフを募り、平行してプロジェクトを進めました。

 

 

―前段となる「AKIBI plus」は、秋田のいくつもの地域で同時並行的に進行するプロジェクトだったと。

 

岩井:そうです。そのプロジェクトが文化庁から想定外の評価を得て、さらに3年計画で続けることに決まりました。そこで、僕らも徹底的にやりたいことをやろうということで、すでに「みちのくアート巡礼キャンプ」で成果をあげてらっしゃった相馬千秋さんにも参加していただくことにしました。僕も岸さんも集中的にワークショップをやって参加者の意識を変えていくプロセスに興味を持っていたので、そこに「みちのくアート巡礼キャンプ」のキャラバン形式で移動しながらワークショップを行うというメソッドをミックスして、地域と密接に関わっていく「旅する地域考」を立ち上げたという流れになります。

 

―「AKIBI plus」と「みちのくアート巡礼キャンプ」の土台の上に、「旅する地域考」が生まれてきたんですね。もともと「AKIBI plus」が掲げていたアートマネジメント育成からは対象者がさらに広がっているようですが?

 

岩井:いえ、アートマネジメントの人材育成というところは引き継いでますけど、アートのシーンを賑やかに、豊かにしていくためにはもうマネジメントだ、アーティストだって言ってる場合ではないという現状認識があります。とにかくアートまわりのプロジェクトに関わる人間の数を増やしていきたいと思っています。

 

―なるほど。では、昨年の夏編、冬編での経験を踏まえて、今年のプログラムはどう進化しているでしょう。

 

岩井:昨年度も地域ゲストという形で、地域の方々との交流しましたけど、どちらかといえば地域内でもアートへの理解があるような人たちを選んでいました。今年はそういう方々だけでなく、地域でふつうに仕事をしていらっしゃる方たちをクリエイティブな仕事として読み替えることを積極的にやっていきたいという考えを持っています。

 

―必ずしもアート文脈ではないようにも見える地域ゲスト、たとえばどんな方のことでしょう。

 

 

岩井:たとえば、個人でワイン造りをしてる方がいらして、ぶどうづくりから瓶詰め、ラベル貼り、出荷にいたるまですべて自分ひとりでもやれるようなシステムを構築されています。そうしたワイン造りそのものが、僕らから見れば非常にクリエイティブなことで、言ってみれば、作品づくりにも似ているんですね。自分でつくることのこだわり、美意識みたいなものが表れているし、土地の地勢や土壌がぶどうづくりにつながる必然性を見出して、それをワインという商品にして流通させるという「文脈作り」そのものがアーティスティックだなと僕は思います。そういった地域で面白いことをやっている人、地域のキーパーソンに対して僕らが積極的に異なる視点で解釈させて頂くことで地域との交流をより顕在化させて、何かしら地域にも還元していくことができるんじゃないかと考えています。

 

―地域でさまざまな生業を持った方に出会う機会を提供するようなプログラムだと。

 

岩井:そのあたりはいろんなバランスを見ながら、関わる人とプログラムを組み合わせていきたいと議論しているところです。旅には海外のゲストも同行しますから、彼から見れば地域の様々な事象がどう見えるのかは未知数です。そうやって現場では、解釈や思考の振り幅をなるべく広くつくっていきたい。辺境を旅するんだけど、考え方はグローバルにつなげていくということが、この「旅する地域考」の特徴のひとつだと言えると思います。

 

―秋田の土地でいろんなことを見聞きするだけでなく、さまざまな触媒を通じて、かなり頭が撹拌されるというか、シャッフルされることになりそうですね。ありがとうございます。10分になりましたので今回はこのあたりで。

 

 

※インタビューのなかで話題にあがったプロジェクトについては、以下のリンク先も参照ください。

AKIBI plushttp://akibi-plus.jp

「みちのくアート巡礼キャンプ」http://art-junrei.jp

 

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