岸 健太 Kenta Kishi

不自由な時間・空間の中でこそ、新しく優れた旅は企まれるものです。

目的地が旅にとりそれほど重要なものではないことを、私たちは経験的によく知っています。むしろ目的地に向かう道程こそ、存分に創られ楽しまれるべきものです。「旅のプロセス」という開かれた時間・空間のなかで、旅人は進みたいだけ進み、立ち止まり、迂回や寄り道をし、眺望し、越境し、言葉を交わし、得られるものを食べ、一夜の居を定め、始点を回想しつつ未来の夢と戯れます。

旅人の内と外に変容をもたらすこのような「旅のプロセス」を、私は本研究科での複合芸術研究の活動を支え推進する最も基本的な要素として位置づけています。このプロセスは、単に経験の器としての時間・空間であるばかりでなく、予定調和の誘惑から逃れようとする心、姿を変えながら異なる領域へと越境を続ける身体、既知の事物を点検・解体・再構成する技術、そして様々な「ディスタンス」により隔てられたものたちを引き寄せ結びつける力としてもイメージできるものでしょう。

Walk on the wild path of your open-ended journey.

2021.07.08